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MILANO SALONE DEL MOBILE REPORT 2003

ミラノ国際家具見本市について ミラノサローネとは、正式には「ミラノ国際家具見本市」という見本市です。 ヨーロッパではパリ、ケルン、バレンシア、ミラノの四都市で開かれる家具見本市が特に重要なものとされていますが、その中でもモダンデザイン家具の発信地として世界に注目されているミラノの家具見本市は、出展する企業数・来場者数などどれをとっても世界最大規模の展示会です。 ミラノサローネの開催時期は近年では毎年4月中の6日間ですが、1961年に初めて開催されてから年々出展者、来場者、取引規模を拡大し続けています。 見本市事務局の公式発表によれば、2002年(昨年)の出展企業数は1,434社、来場者数は185,771人(同時開催のキッチン見本市などへの来場者を含む)、総取引金額は8,914,215ユーロ(約11億7000万円)、最新発表による2003年の出展企業数は1,479社、来場者数は171,520人(同時開催の照明見本市などへの来場者を含む)となっています。 また、毎年開催される家具見本市(サローネ・デル・モービレ)のほかに一年おきに照明器具見本市(ユーロルーチェ)、キッチン見本市(ユーロクチーナ)、住宅関連用品見本市(サローネ・コンプレメント・ディ・アレッド※毎年開催)が同時に開催されます。

ミラノサローネの大きな特徴の一つとして、見本市開催期間中(約一週間)「フィエラ」と呼ばれる展示場での国際見本市の他に、ミラノ市内各所でショールーム、ギャラリー、フリースペースなどを使った百を越えるデザインイベントや展覧会が大規模に開催されることがあります。 「フオーリフィエラ(「展示会場の外」の意)」と呼ばれるこれらの市内イベントでは有名無名を問わず世界各国のデザイナーの情報発信が行われ、特に近年では世界のインテリア・家具デザイン発信源としての価値を高めています。

FUJITA DESIGN Lab.では1994年からミラノサローネを毎年ウォッチしており、1997年からはパーソナルリサーチレポートとしてサローネの資料分析と記録を続けてきました。 最近では日本のデザインメディアも大々的にサローネの最新情報を日本に紹介しているので、情報の即時性という点ではメディアによる組織的な取材にかないませんが、デザイナーの目から見るサローネを連続して捉えていくことで年々変化するデザインの傾向をとらえ、新作情報中心のジャーナリズムとは性格の違う独自のデザインウォッチングとして分析していこうと心がけています。

 

2003年のデザイン傾向 ミラノサローネにおいて2003年がどのようなデザインの年なのか、多様かつ巨大な規模の見本市を簡単に総括することは出来ませんが、約十年にわたる継続的なサロ−ネウォッチングの中で、リサーチャーが現場で感じた印象を資料と照らし合わせながらいくつかのキーワードで整理してみたいと思います。

「エレガントなデザイン表現へ」

1997年前後から特に目立ち始めたモノトーン・ミニマルデザインは2000年をピークにモダンインテリアデザインの定番として定着しました。一方で新しいデザインテイストに対する期待も高まっており、ここ数年のミラノでは再びカラフルな色使いが目に付くのですが、特に2003年は家具のファブリックに柄をあしらったもの、フェミニンな色使い、曲線を多用したデザインが気になりました。これらの傾向を一言で言えば、よりエレガンスを感じさせるデザインへの志向が感じられます。

「レトロモダンデザインへの共感〜モダニズム再評価」

建築からインテリア、デザインの分野では、1980年代がポストモダニズムデザインの十年だったとすれば、1990年代はハイテクノロジーとミニマルデザインが主流になったといえると思います。デザインの傾向は時代と共に社会の嗜好の変化があり、21世紀に入ってからはむしろ1960年代〜70年代に花開いたモダニズムデザインのリバイバル(再評価)が高まっているのではないでしょうか。 世界的なイームズ再評価をはじめ、近代デザインの第一世代の仕事を見直す傾向の中で、新しいデザインにも前衛的・先鋭的というよりレトロスペクティブなデザイン表現が多くなっています。

「モノトーンとカラフルコーディネートの共存期」

前項でも触れましたが、モノトーンのカラーコーディネートとミニマルデザインの組み合わせはすでに一定のスタイルとして定番化し、イタリアのトップメーカーはおろか日本の中小住宅メーカーが取り入れるまでに定着しています。一方でデザインの発信源として一流メーカーでは、すでに数年前からモノトーン・ミニマルの次のデザインテイストを模索していますが、その一つの答として、カラフルインテリアが受け入れられて始めているようです。 色の流行についてはファッション、インテリア、プロダクトなどそれぞれの分野で広範かつ計画的なリサーチや流行操作が行われており、また国や地域、文化によっても細かな傾向の違いがありますが、大きな枠組みの中では今後より明るい色使いのインテリアがモノトーンコーディネートに飽きたユーザー層に対して受け入れられていくことと考えられます。 2003年時点ではイタリアの見本市でもモノトーンとカラーの共存が見られますが、日本国内市場ではようやくモノトーン・ミニマルが市民権を得たという印象を受けるので、現在進行しているヨーロッパに於けるインテリアテイストも今後十年程度のスパンの中で(あるいはもうすこし早く)日本の住環境デザインに浸透していくのではないでしょうか。

「新素材・新技術のアプリケーション開発の必要性」

家具デザインの分野ではメーカーごとに扱う素材(木材、樹脂、金属、ファブリックなど)について研究開発が進んでいるので、メーカーごとに細かく見ていくと新技術や新しい素材の取り扱いに様々なヒントを得ることが出来ます。 一方、照明器具の分野では、近年高輝度LED(発光ダイオード)の研究開発が世界規模で進み、新時代の省エネ光源として照明器具への本格的なアプリケーション開発が検討されています。LEDの弱点である色温度と照度不足の問題は今後の研究に期待しなければなりませんが、すでに保安灯、屋外灯などについてはデザイン的にも洗練された製品が発表されており、今後は特に屋内の主照明にかわる部分でどのような可能性があるか、より多くの用途開発が求められています。その意味でも、ドイツの照明デザイナー、インゴ・マウラーによるLED照明家具(オブジェ)は、実用面での課題を多々含みながらも新光源素材を生活の中で活用するための実験として他を先んずるものがあるといえるでしょう。

 

2003年ミラノ国際家具見本市 実際のミラノサローネにはモダンデザインだけでなくクラシックも含めた多種多様なデザイン家具が展示されますが、その全体を見るだけでも一週間の会期は充分とはいえません。あくまでリサーチの範囲をモダンデザインに絞り、さらに定点観測的な継続したデザインリサーチを中心に、2003年のミラノで特に印象に残るメーカー、デザイナーの展示発表のいくつかを以下に紹介します。

エドラ:

1987年からマッシモ・モロッツィをデザインディレクターに、斬新なデザイン家具を発表しているメーカーです。日本人デザイナー梅田正徳の薔薇をモチーフにしたソファもあります。 どちらかというとユーザーを若者や店舗に向け、モノトーンやミニマルデザインの流行にも関係なく、アバンギャルドでポップなデザイン家具に特化していますが、2003年の新作はなんと端材を組み合わせた前衛的なチェアを発表していました

カルテル:

1949年設立のプラスチック製品メーカーです。2003年の新作コレクションはフィリップ・スタルク、アントニオ・チッテリオ、ピエロ・リッソーニ等によるもので、特にスタルクデザインのチェア、Mademoiselle(マドモワゼル・写真)はカルテルには珍しいファブリック(それもクラシック柄)とプラスチックを組み合わせたデコレーティブなデザインとなっています

モローゾ:

昨年までの見本市のパビリオン定位置から移動したモローゾ展示スタンドは、広い空間の天井全体に発砲スチロールの円筒を吊して白い森のような空間を作りだしたもので、商品の家具以上に空間の印象が強い のですが、これも演出効果として計算上のことでしょう。 2003年はコンスタンティン・グルチッチの新作(写真)のほか、 ロン・アラッドの代表的なソファがプラスチックバージョンで再登場 しました。

また、市内の仮設スペースでの展示では自社製品のファブリックをエキゾチックな赤地の柄物で張り直して並べていました。カルテル同様デコレーティブでクラシックなファブリックをアクセントに使ったトップメーカーがあったということは、来年以降の他社への影響がどうなるか、気になるところです

カンペッジ:

カンペッジは毎年ヴィコ・マジストレッティ、デニス・サンタキアラやジョバンニ・レヴァンティなど個性的なデザイナーを起用し、独特なスタイルの家具を発表するメーカーです。 2003年のジョバンニ・レヴァンティの新作(CANDORE・写真)は張りぐるみの木馬のようなスイングチェアですが、デザイナー本人によれば正しい座り方は背中をもたせかけるのではなく木馬のように座るのだとか

ザノッタ:

ザノッタは1954年ミラノ郊外で設立されたモダンデザイン家具メーカーです。60年代からカスティリーニ、グレゴッティ、ザヌーゾなど著名なイタリアの建築家・デザイナーのデザインを製品化し、80年代にはメンフィスやアルキミアのポストモダンデザイン家具を製品化しています。 2003年の新作はロス・ラブグローブデザインの曲線的な寝椅子(Brasilia・写真) のほか、アバンギャルドデザイン家具で知られたザノッタにしては大人しめのクラシックな雰囲気のあるものが多いようです

カッシーナ:

カッシーナは1927年に設立されたメーカーで、戦後一流建築家、デザイナーたちのデザインした家具を数多く発表し、世界中にイタリアのデザイン家具のクオリティを浸透させたトップメーカーの一つです。 カッシーナは例年見本市には出展せず、市内中心部のショールームで新製品発表をおこなっていますが、今年はなぜかショールーム入り口に真っ赤な人の頭のオブジェが飾られています。 2003年の新作は高級モダン家具の一流メーカーらしく穏やかで洗練されたデザインが並びました

カッペリーニ:

カッペッリーニは第二次世界大戦直後から家具を製造していた会社で、70年代に入りモダンデザイン家具の分野に参入し、カッシーナ、B&Bなどといった名門メーカーとひと味違う若々しい雰囲気のデザイン家具を次々に発表して注目されました。90年代には早世した日本人デザイナー、倉俣史朗の家具をリ・プロダクトして話題になっています。 ミラノ市内二カ所にショールームを持っていますが、その他2000年からサローネ期間中は郊外の工場跡地スペースを使った大がかりな展示をおこなっています。 ショールームでは自社製品をふつうにコーディネートしていますが、サローネ期間中限定の仮設展示では、床面と一体化したような家具モジュール(写真)やボリュームをえぐった内側に座る家具など、今年もプロトタイプを含めた大がかりで実験的な展示をしています

ボッフィ:

ボッフィは高級キッチンメーカーとして1947年に設立されました。その後、バスタブをはじめ浴室関係の分野にも進出し、現在ではキッチンの商品ラインとバス・トイレ関係の商品ラインを平行して展開しています。 高級デザインキッチンがどのようなものかというと、システムキッチンの最高級ラインではフルセットで一千万円近い製品もあるそうです。使い勝手よりもスタイルや素材の高級感を重視しているようですが、このクラスのものになるとユーザーは自分でキッチンの掃除などしない(メイドがいる)そうですから、要求されるデザインのポイントが通常の商品とは違う、ということでしょう。 明るいのが常識のキッチンでありながら、黒を基調としたインテリアでの商品展示は近年イタリアのトップメーカーが好んで使う手法です

水回りのデザイン:

イタリアは知られざる水回り製品の先進国で、システムキッチンもドイツに劣らない品質とデザインを誇るメーカーがありますし、ジェットバスで有名なジャグジーはイタリア人(正確にはジャグージ)、国内には水回りデザインの専門誌まであります。 これまでミラノサローネではキッチンに関しては一年おき(照明器具と交代)に見本市を開催してきましたが、バス・トイレ関係については特にパビリオンを設けていませんでした。2003年から見本市内に新たに水回り関係のパビリオンが設定されたことは今年のトピックスと言えるでしょう。 家具メーカーではありませんが、今年話題となったのが飲料水のエビアンの展示ブースで、透明なエアドーム(床面がウォーターベッドのようになっています)に靴を脱いで入ると、中はリラックスとマッサージのためのヒーリングスペースになっているというもの(写真)

ヨーロッパのヤングデザイン:

1990年代からヨーロッパの各国では、それまでの産業並行型のプロダクトデザインからはずれた、よりコンセプチュアルで人間心理に与える影響を考えた新しいデザインへのアプローチが次々と生まれました。特に1992年から活動を開始したオランダのドローグデザイン(オランダ語でドローグは「乾いた」の意)は、オランダの若いデザイナーの活動をサポートする財団組織として、政府からの援助を受けながら独自の実験的なデザイン発信を続け、93年のミラノサローネでの発表(市内の自主展示)を機に世界的に新しいオランダデザインをアピールする起爆剤となりました。 またミラノサローネでも1998年から「サローネサテライト」としてパビリオンを一つ各国の若いデザイナーの自主展示のために開放(審査制のレンタル展示スペースを用意)し、最近では有力メーカーが新しい才能を発掘する場としても注目されています。 オランダのヤングデザインが注目されたことをきっかけに、90年代後半には、それまで各国内で育まれていた自国の若手デザイナーをサポートするグループやオーガニゼーションがミラノへ集まりました。 フィンランドの「スノウクラッシュ」、フランスの「VIA」などがオランダ勢とならんで毎年のようにミラノで新しいデザインを発表するようになり、イタリアのみならずそれぞれの国が自国のデザインの新鮮さ、魅力を付加価値として新しいプロダクトのアピールに力を入れるようになったわけですが、今ではそれらの潮流が日本でも紹介されるようになりました。 このように各国政府が関わって若いデザイナーの活動を後押しする背景には、ヨーロッパ統合による新しい地域間競争がデザインの分野にも及ぶと考えられているからでしょう。 2003年のミラノサローネではオランダのドローグデザイン(写真droogdesign-01)、ダッチディライト(写真dutchdelight-01,02)、フランスのVIA(写真via-01〜06)のほか、イギリスがブリティッシュ・カウンシルとロンドン・デザインミュージアムの後援による若手イギリスデザイナーの展示(写真britishdesign-01〜03)をおこなっています。 これらのヤングデザイン展示は見本市やメーカーの展示と違いその多くがプロトタイプで、生産手段や販売計画まで確保したものは少ないのですが、プロダクトデザインが単なる経済発展と生産の手段としてだけでなく、生活の質の変化をもたらすための実験として、また次世代の有力なデザイナーを育成するプラットフォームとして、若いデザイナーをサポートする活動がヨーロッパのデザイン界はもとより産業界やユーザーからも期待が高まりつつあります。

ゥFUJITA DESIGN Lab. allright reserve 2003
 
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