FDL REVIEW
「ミラノサローネレポート2002」(2002年)

 ここ数年、日本ではデザインが(特にインテリアデザインが)大きな話題になっている。  おかげで、これまでデザイン関係者でなければ知らなかった情報や、世界中のグッドデザインアイテムが一般の人たちにも興味のあるものになったというのは嬉しいことだ。食べる客の舌が肥えることでレストランの料理が洗練されていくように、デザインも生活の中でそれを利用する普通の人の意識が高まればもっと面白くなる。  インテリアデザインが話題にのぼるようになったのは、「生活と空間をいかに楽しくしようか」ということを沢山の人が考え始めたと言うことかもしれない。  誰かの持っている物を自分も手に入れることで満足する、そんなバブル時代の幸福と違って、自分で選んだものを「自分で組み合わせて」楽しむ、そんな意識のあらわれだと思いたい。

 私は毎年春になると、ミラノサローネを観に行くことにしている。90年代半ばにイタリアで学び、現地でデザインの仕事をしていたので、サローネ視察は里帰りの口実のようなものでもあるのだが。  ミラノサローネは1961年に始まった国際家具見本市で、家具の見本市としては世界一の規模と言っていいだろう。公式発表によると、2001年の出展者数は1479社(うちイタリアメーカー1230社)で、1週間の会期中の来場者数は17万3500人(同時開催の「ユーロルーチェ」来場者を含む)にのぼったという。

 イタリアの家具産業は、ミラノ(ロンバルディア地方)をはじめ、スイスに近いコモ、やベネチア(ベネト地方)周辺など、おもにイタリア北部に集中している。ミラノがイタリアデザインの首都のような地位を占めているのは、ヨーロッパの他の国々への玄関口のような位置関係のせいもあるだろう。ミラノサローネの会期中、国際展示場には30棟近い巨大なパビリオンが並び、モダンデザインからコテコテのクラシックスタイルまであらゆる家具が出展される。加えて市内でも、家具のショールームやギャラリーをはじめとするスペースで、200を超えるデザインイベントや展覧会が開催される。サローネの1週間、ミラノは町中がデザインであふれる。

 今年のミラノサローネで気になったのは、デザイントレンドのリーディングカンパニーともいえるB&B、プラスチック製家具メーカー、カルテル、独特のポップなスタイルで 新作を出してくるエドラ、そして、素晴らしい革張りの職人技とモダンなデザインが融合したポルトローナ・フラウなどだ。

 B&Bは、1973年にイタリアの名門カッシーナ社との合弁企業としてスタートしたが、今では押しも押されもしない一流メーカーとなった。豪華客船の内装も手がけて評判をとっている。 90年代後半、いち早くモノトーン・ミニマルスタイルのデザイン家具を発表したのがこのB&Bだ。今年はミニマルな生活空間デザインを残しながら、イタリアらしい遊び心を感じさせる製品を続々と発表することによって、次の時代のスタイルを積極的に模索している様子を感じさせる。

 カルテルは、日本でも有名なフランス人デザイナー、フィリップ・スタルクのデザインした、色ガラスのような透明感のあるプラスチックチェアが人気を呼んだ。今回のサローネにもいくつか面白い新作があったが、それに負けずとも劣らないデザインが、彼らの展示ブースだ。去年は庭園をモチーフにした緑で、強く印象に残っているが、今年はツヤのある黒を基調にした巨大なブースのパネルに赤いサインを光らせるというプレゼンテーションで、ひときわ目を惹いていた。

 エドラはモノトーンカラーが流行した近年でも、変わらずポップな色と形を特徴とする椅子やソファを出し続けている。奇抜なデザインが多いが、座り心地は意外に悪くない。同じ事を日本人がやってもむずかしそうだが、イタリア人がやるとカッコ良くなるのが不思議なところだ。

 ポルトローナ・フラウは、ランチアなどイタリア車の内装なども手がけている。その革張り技術は世界最高水準と言っていいだろう。革張りソファというとクラシックなものをイメージするが、シャープなフォルムの折り畳み椅子(もちろん革張り)など、デザイン的にもみるべきものは多い。フェラーリ、アルファロメオで有名なピニンファリーナが作った工業デザイン部門「エクストラ」がデザインを担当したリラックスチェアは去年にひきつづき、大々的に展示されていた。

 会場で目についたのが、箸と漆器風の茶碗がならぶダイニング、といった日本を意識したコーディネートだ。90年代後半から流行しているミニマルデザインの影響だろうか。確かに、ヨーロッパ全体にスシバーが増えてきていて、欧米人のあいだで和食が定着したせいかもしれない。同時に、B&Bでミニマルスタイルを提案した、イタリアの実力派デザイナー、アントニオ・チッテリオのテイストが影響を与えているということもあるだろう。

 展示場ではなく、街の中心にあるドリアデのショップでは、人気のインテリアデザイナー、吉岡徳仁さんが新作を発表していた。吉岡さんは三宅一生のショップデザインを数多く手がけるデザイナーだが、今後は海外でも活躍の場を増やしていくのだろう。日本ではイタリアデザインとは縁が深い人が多く、今年も日本でよく知られるベテランのデザイナーが何人も展覧会をおこなっていた。また、日本からイタリアへ売り込みに来る若いデザイナーも多い。

 若手デザイナーといえば、ここ数年、サローネ会場の中に、若いデザイナーの発表の場として「サローネサテリテ(サテライト)」という特別パビリオンが用意されている。ここで自分たちのデザインをアピールしようと、世界中から若いデザイナーたちが応募してくる。国内だけでなく世界に向けて自作のプレゼンテーションをしたほうが、作るがわにとって張り合いがあるというものだ。

 もともとミラノサローネは世界中から来場者が集まるが、特に今年はヨーロッパが統一通貨「ユーロ」に切り替わり、ヨーロッパ経済圏の統合に向けて大きく動き出した年でもある。だからだろうか、オランダのドローグデザインや北欧のスノウクラッシュのように、それぞれの国の若いデザイナーがミラノサローネで自分たちのスタイルを強くアピールする傾向がより強くなってきた。

 さらに国をあげての取り組みという点では、フランスが抜きんでている。VIAというオーガニゼーションをつくり、毎年ミラノの町はずれにある大きな展示スペースで、自国の若手デザイナーの作品を展示している。世界中のバイヤー、デザイナーが集まるミラノで、フランスのデザインプレステージが高めよう、という狙いなのだろう。 VIAが展示をする町はずれのトルトーナ地区は、90年代後半から古い工場跡を利用してカッペリーニなどが大々的な展示をするようになったこともあり、ここ数年で話題性の高い地域になった。今年は安藤忠雄が設計したアルマーニのスペースもオープンし、アルマーニブランドの家具が発表された。ファッションハウスの家具志向はアルマーニにかぎらず、フェンディ、ベルサーチなども家具やインテリアに関する提案を発表している。カッペリーニは昨年からエミリオ・プッチの生地を使った家具コレクションで話題を呼んでいる。

 個人的に注目しているのがプロドゥツィオーネ・プリバータ(プライベート・プロダクション)というプロダクトブランドだ。 これはイタリアの建築家/デザイナー、ミケーレ・デルッキのプライベートブランドで、すでに照明器具などが日本でも販売されている。ミケーレ・デルッキはアルテミデ社の照明器具やアレッシのテーブルウェアなどで日本でも知る人の多い大物デザイナーだが、ヨーロッパでは建築の分野でも活躍している。  その彼がなぜ家具や照明器具のプライベートブランドを作ったのか。昨年来日した際に話を聞いたところによると、「大きな仕事を任されるデザイナーになると、デザインの失敗をおかすことが絶対に許されなくなる。私はデザイナーとして自分の考えるデザインを試しながら、失敗が出来る仕事が必要なのだ」と答えてくれた。彼ほどの大物デザイナーがこれまでの成功に飽きたらず、自分のデザインを追求するという姿勢には本当に学ぶところが多い。

 ビジネスとしての家具(デザイン)業界を見れば、イタリアには圧倒的に中小メーカーが多いが、ヨーロッパ各国をはじめアメリカ、アジア(日本など)の市場で活躍している。市場が世界規模であるために、自分たちの個性を強く主張した商品に高い付加価値をつけて売るやり方に精通しているともいえる。  従業員規模100〜200人程度の中小企業が中心で、彼らは生産する商品の傾向を絞り込み(たとえば高級デザイン家具や水まわり什器など)、これぞというデザインアイテムをミラノサローネに発表し、その場で世界各国のバイヤーと商談をとりまとめる手法をとることが珍しくない。商品の売り込みに関しても、ヨーロッパの景気が悪いときはアメリカやアジア市場へ、アジアがダメな時は中東の市場を狙う、といった機をみるのに敏な舵取りで売り上げを伸ばしている。市場は国内だけ、メーカーはありとあらゆるスタイルのデザインをそろえる日本のメーカーとはかなり違うようだ。

 ところで日本から見ると、イタリア家具はモダンデザインばかりという印象だが、実際のイタリア人の暮らしをのぞいてみれば、意外なほど古い物に対する愛着が強い。先祖代々の古い木製家具を大事に使っている。しかも経済的に豊かな、いわゆるハイソサエティほどその傾向が強いかもしれない。  古くからある大切なものに新しい物を取り入れる、というのがイタリア人の得意なやりかただ。たとえば、築500年以上の古い屋敷を修復してアンティークな家具を入れながら、ポイントになる空間にはモダンなテーブルやソファを置いたり、歴史的保存地区のパラッツォ(屋敷)を外装はそのまま建物内部をモダンデザインで快適にリニューアルする(法律で改装の自由度が厳しく定められてはいるが)、というのはお手の物である。そんなバランス感覚、あるいは一種のコーディネート感覚がイタリア人の「センス」なのだ。  家具のデザインは、それぞれのプロダクトで完結しているようでいて、じつは空間との関係を無視することが出来ない。住む人がどんな家具をどんな空間に置くか、空間と家具の関係でデザインの持つ意味ががらりと変わる。それが面白さなのだが。

 イタリア人の友人が言った。「女の子が3人で旅行に行った。旅先でひとりがかわいい靴を見つけて買ったとするだろう。イタリア人の場合、後の2人は絶対に同じ物を買わない。日本人だったら3人とも同じ靴を買うんじゃないか」

 その通りである。どちらがいいか悪いかは別の話だが。  常に自分の個性を人と違うものとして主張する。いろいろなものに好奇心を持ち、夢中になる。イタリアが世界のデザイン発信地となりえる背景には、こんなイタリアの人と風土によるところが大きいのだろう。

 そういえば、イタリアのクルマだってそんな感じではないですか?(藤田寿伸 工業デザイナー)

(モーターマガジン社「モーターマガジン」2002年7月号)


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