FDL REVIEW
「ミラノサローネとポストモダンデザイン」(2002年)

 イタリアは1950年代から1960年代にかけて驚異の成長と呼ばれる景気発展の時期を迎え、イタリアデザインも産業の好調に支えられて多くの人材と傑作デザインを生み出した。そんな中、国内でイタリアンファニチャーをアピールする大型見本市の必要性から生まれたのが、1961年12月24日に開催された第一回ミラノ国際家具見本市:ミラノ・サローネ・デル・モービレだった。

  以後40年をへて、現在世界最大規模の国際家具見本市となったサローネだが、もっぱら海外(特に日本)からはデザインファニチャーの展覧会のように受け取られがちだ。しかし実際には華やかさの影に現実的なビジネスシステムを持っているからこそ、これほどのポテンシャルを保っていると言えるだろう。 ちなみに2001年の出展者数は1479社(うちイタリアメーカー1230社)、会期中の来場者数は17万3500人(同時開催展来場者を含む)、取引総額は一週間で約883万ユーロ(10億円強)にのぼる。

 時代の主流となるデザインを商業的に推しながら、デザインを芸術や文化の視点からとらえる感性の伝統をもったイタリアでは、採算とは無縁だが新しい時代を見すえたアバンギャルドな提案を柔軟に受け入れる産業界の土壌があった。このようなイタリアの産業界は、古くはオリベッティ社のデ・ベネデッティ、最近ではアレッシ社のアレッシなどデザインを企業戦略の軸に据えた経営者を、またデザイナーの中にも経済感覚に優れたクリエイター、デザインディレクターを数多く生み出している。

  一方、デザインを概念化する、あるいは人間心理に与える効果として考えることはデザインの情報化戦略にもつながってくる。「メイド・イン・イタリー」のイメージを高め、ブランド性を高める手段として、デザインが効果的に利用されているのだ。

  1968年にはアバンギャルドデザイン集団・アーキズームがサローネで前衛的な家具を発表している。60年代の停滞していたモダニズムデザインに対して反論を加えながら、なによりも視覚的にインパクトのあったラディカルデザインは、新しいイタリアデザインをアピールする絶好の宣伝素材だった。

  そして1970年代後半から1980年代にかけて、イタリアのデザイン家具は世界的な評価を確実なものにした。この時期サローネは展示をメーカーのデザイン傾向によって「クラシック」「モダン」「デザイン」といったカテゴリー分けしながら会場構成するようになったが、中でも注目を集めたのが世界の先端を行くポストモダン、スタジオ・アルキミアやメンフィスのデザインだった。

  作りやすく、機能的なデザインを追求したモダニズムデザインを笑うポストモダニズムには、もちろん単なるスタイルを超えた思想があった。それは産業主体で発達してきた20世紀のデザインが、もはや人間に幸福感を与えないプロダクトを量産している事への疑問である。しかし産業主導社会へのアンチテーゼとして生まれた筈のポストモダニズムがあっという間にポスト産業時代=情報と消費の時代の象徴として、バブルの時代を象徴するスタイルになったのは歴史の皮肉といえるだろう。

  ポストモダンスタイルのブームが去り、1990年代に入るとサローネの主役は見本市会場の外から現れる。貿易ビジネスを目的としたサローネが新しいデザインの発信地として注目を集めるようになったため、ドローグデザインやスノウクラッシュといったヨーロッパ各国の若いデザイナー達が自分たちのデザインをアピールする舞台としてミラノ市内で自主展示を展開するようになったのだ。

  80年代のポストモダニズムにくらべ、90年代に現れたヨーロッパのデザイングループは社会的背景から生まれたコンセプトによって団結するという傾向が弱い。これは90年代の新しいデザインに思想性がなくなったと言うことではなく、むしろより自然体で、デザイナー個人が人間や社会に対してデザインを通じてアプローチしていく、というスタイルだからだろう。 また時代のスタイルとなったミニマリスムとも関係づけられるが、過剰な表現でアイディアを伝えるのではなく、より少ない要素の中で物の本質を考えさせるデザインに注目が集まった。メンフィスが「グラマラスなアイロニー」であったとすれば、新世代を代表するドローグデザインやスノウクラッシュに感じられるのは「控えめなユーモア」の感覚か。

  90年代を代表するデザイングループによって、サローネは新しいデザインで世界へデビューするステージ、という新たな役割を担う様になった。また家具産業界も常に新しい才能を求めており、小回りの利くイタリアの家具メーカーはドローグデザインを初めとする新世代デザイナー達をいち早く自社の新製品開発に招いている。

  一方ミニマルなデザインスタイルの消費にかげりの見え始めた近年は、ポストモダンの再来を思わせるような鮮やかな色とポップなデザインがむしろ新鮮に見える。皮肉な見方をすれば、新しいアイディアをアピールする若いデザイナーたちは、いつの時代にもサローネという大きなビジネスのシステムへ飲み込まれていく、といえるかもしれない。(藤田寿伸 工業デザイナー)

(インファス社「スタジオヴォイス」2002年8月号・特集「ポストモダン・リターンズ」)


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